ROE経営
いやー、前回の投稿をみたらなんと2020年の8月、それから約7カ月ぶりの投稿です!
なんでこんなに時間が空いてしまったのか。。。2020年後半は一大プロジェクトがあり忙しすぎて、週末も仕事仕事でコメントを書く気力が一切残っていませんでした。で、プロジェクト自体は今年1月末に終わったのですが、やはり一回間が空いてしまうと人間億劫になるもので…、ようやく筆を執った次第ではあります。とはいえ、そんなに大したことを書いている訳でもないのですが。。。
さて、今回のテーマは「ROE」、いわゆるReturn on Equityということで、株主資本利益率です。ROEといえば2014年に発表された一橋大学の伊藤教授が座長を務めて発刊された「伊藤レポート」で、企業は最低でROE8%を目指すべし!と謳われており、同レポートは日本企業のコーポレートガバナンス改革の大きなきっかけになったと言われています。
なぜROEを今回取り上げたかというと、こちらもだいぶ前の記事になってしまいますが、私の好きな識者のお一人である、元Citiグループ証券副会長の藤田勉さんが、『ROE経営は日本独自のもの』という記事を書かれており、『いやー、その通りですよねー』と共感したためであります。で、その記事なのですが(日系ベリタス)、冒頭で一橋の名誉教授である野中郎次郎氏の私の履歴書でのコメントを真っ向否定する感じの書きぶりになっており、やや冷や汗をかいてしまった感じで、非常にインパクトのある藤田さんのコメントでした(藤田さんは、現在は、同じく一橋の客員教授ですね)。
で、藤田さんのおっしゃるとおり、欧米企業では、業績評価指標(≒KPI)は基本的にEPS(一株当たり純利益)やEBITDA(償却・利払前利益)といった利益指標が太宗であり、ROEをKPIにしている企業は殆どないという事実があります。ROEというのは、(これまた藤田さんのおっしゃるとおり)かの有名なデュポン分析により3つの要素に分解でき、①売上高利益率×②総資産回転率×③財務レバレッジの掛け算になっています。
で、欧米企業はとにかく利益(デュポン分析式の①)に拘っているわけですね。何故、欧米企業はROE、とくに③財務レバレッジまで意識しないのか、不思議な感じもしますが、財務レバレッジというのはいわゆるコーポレートファイナンス的には『最適資本構成』のことを指しているのであり、企業の財務戦略において、最適な資本・負債構成はどうあるべきか、ということです。
欧米企業が③財務レバレッジを気にしていないわけではなく、あくまで、彼らにとっては、『財務レバレッジや最適資本構成といったコーポレートファイナンスのテーマは、極めて当たり前のことであり、当たり前のことであるが故にわざわざそれをKPIとして織り込むまでもない』というのがROEをKPIとして使用しない欧米企業の姿というのが私の見解です。企業価値を高めるために、企業が常に最適資本構成を目指すのは至極当然であり、そんなものはKPIでも何でもないってことですね(笑)。
当たり前なことは当たり前にやるとして、企業の唯一無二のKPIは、『顧客に価値を創出し、利益を伸ばし続ける』、これしか無いわけです。そもそも、ROEもそうですが、中期経営計画っていうのも、日本独自の開示資料ですよね。私も多くの企業の中計を見てきましたが、KPIとして掲げた指標が5個とか、多い企業だと10個近い企業もあり、なんか、『サラリーマン的に一生懸命考えて策定しました』感が満載なんですよね。中長期戦略が分かりやすいストーリーとして落とされている中計には価値があると思いますが、総花的なものは正直あまり意味がないと思いますし、藤田さんのおっしゃるとおり、KPIはただ一つ、利益指標だけで良いと私は思います。
あと、更に意味が分からないのは、M&A投資枠をKPIに掲げている企業です。なんでこうなる~??『次期中計3年間で3,000億円をM&Aに投じます』とかよく書いてありますけど、M&Aというのは、自社の事業資源とシナジーが見込める他社資源があり企業価値が向上するのであれば、時限も金額も限定せず、常に積極的に取り組むべきですし、シナジーを生まないM&Aなのであれば、常にやるべきではありません(企業価値が棄損します)。即ち、決して金額やタイミングに縛られてはならないのです。3年で3,000億とか掲げている時点で、M&Aが手法でなく目的になってしまっている訳です。こうなってしまうと、3年の後半あたりで『目標金額を使わないといけない』、といった心理が働き、間違いなく良くない案件に高値掴みをして失敗することになります。まさに、手段と目的を取り違えている好例だと思います。
今回は、7か月ぶり!の投稿でやや長くなってしまいました。日本の大企業もコーポレートガバナンス改革が進んできているとは言われますが、ROEとかM&A枠とかを目標に掲げている時点で、まだまだ欧米企業から周回遅れになっていると言わざるを得ません。もっと大胆かつ周到な戦略で企業価値を高めてくれる企業に投資したいものです。